10年前、私は気候変動についてなんとなくした不安をいだいており、現場での体感を得るために林業界に飛び込んだ。
なんとなくした不安というのは、当時、気候が温暖化しているのか、氷河期が来るのか、海面が上昇しているのかなど、二酸化炭素が大気中に増えることでどのような影響があるのかなど分からないことが多かったからである。
ただ分かっていたことは、手入れの届かなくなった人工林を間伐することで二酸化炭素の吸収量を増やせば大気中の二酸化炭素量を減らすことができるということだけであった。
今、振り返ると確かに人工林を適切に間伐することで、残存木の成長量を増やせば二酸化炭素量を減らすことができる。ただし、それは、間伐木を山から搬出し材木として使用した場合に限られる。2017年の国有林の間伐木使用率は6%である(林業白書)。
では、どうすれば温暖化を防げるのか、私が出した結論は森林整備によって温暖化を防ぐことは不可能であるということだ。温暖化を防ぐために森林整備をしよう!!というスローガンは行政であれ企業であれNPOであれ全て嘘である。
今の大量消費文化では温暖化が進み人類が生存することができなくなってしまうと世界中の人々が考え、改心し狂信的に炭素排出をやめれば話は別だが、そのような兆候は今のところ全くない。
温暖化によって人類が生存できなくなるかどうかも実際、分かっていない。南極の氷河の量が減って海面が上昇するかも分かっていない。
しかし、温暖化は確実に進行しており、取り返しのつかない事態になる可能性もある。現在の技術で温暖化を遅らせる方法は電気など炭素由来のエネルギー消費量を減らし、炭素の放出量を減らすしかない。気候変動に関する国際的な枠組みもあるが、目標が達成されたからといって、温暖化が止まる内容ではないし、抜け穴も多いので期待しないほうがいい。
しかしながら、森林によって温暖化が防げないならば森林整備をしなくていいという訳ではない。
なぜなら森林が持つ力は二酸化炭素を吸収することだけではないからである。
木は炭素を吸収するために生きているわけではない。生きるために炭素を消費しているのである。
私が10年間、毎日、樹木と対峙して実感したことは、木は生きているということである。森は土砂を保持する力、地下水を涵養する力、空気を清浄にする力、人をリラックスさせる力など様々な力を持っている。
本来、樹木が住みたい場所、適した環境で生息できるように森林を再生し、その余録(おまけ)として樹木による生命活動の副次的効果を利用させてもらう。そのような人と森との関係を築いていきたい。
様々な力の中で私たちが重要だと考えるものが、人をリラックスさせる力である。
人をリラックスさせ、活力を与える森は生命力に富んだ森である。生命力に富んだ森は、水、空気、匂い、フィトンチッド、花、実、きのこなど様々な恵みを与えてくれる。
また、森林再生において最も優先順位の高い場所は川辺の林(河畔林)である。
その理由は単純で、生き物は水がなくては生きていけない。水辺には沢山の動物、鳥、昆虫、魚が集まってくるパラダイスがある。
河畔林には河畔林特有の樹木があり、適正な場所に適正な樹木が生息することは樹木にとっても人間にとっても良いことである。
海に水があり
山に河が流れる
河は海と山をつなぐ大動脈
私たちが重要な機能であると考える”レクリエーション機能”と優先度の高い場所である”河畔林”を組み合わせ、
河畔林の再生を通して、レクリエーションを楽しむ
本モットーをもって『尾白川を守る会』の立ち上げを宣言いたします。
日本中、世界中に様々な河があるので、共感していただけた方は近くの河を見てみてください。新たな発見があるはずである。